次に、薬品の臨床試験などの投薬データなどについて、その薬品を投薬した場合と、何もしなかった場合について、それぞれ、どれくらい治癒したのかを比較するようなケースを考えます。どれくらいの差があれば、効果があったと言っていいものでしょうか?
そこで、こういった問題に対して、統計的なモデルを用いれば、例えば、300世帯について調査を行った場合には、どれくらいの誤差を含んでいるのか、などといったことが計算可能です。
また、実際のデータがなくても、計算機を使い現象をシミュレートして、その現象がどんなメカニズムで起こっているのか確かめる、といったシミュレーションによる研究もあります。
これ以外でも、いわゆるテストについて、紙を使った従来のテストではなくて、コンピュータを使って、従来のものよりも効率的にテストを行うことについて研究し、実際にテストのシステムの開発を行ったりもしています。
このように、実社会にある様々な現象について観測されたデータをモデル化し、それを理論的に考察するために、何らかの形で統計学的な手法を使うテーマに関して、研究を行います。
例えば、扱うデータとしては、以下のような色々な分野のデータが考えられます。工学の分野では、生産ラインや実験の際の測定値などのデータ。経済の分野では、株価やマーケティングなどに関するデータ。アンケートやその他の調査などの社会調査に関するデータ。心理学的なテストや学力テストなどの心理測定に関するデータ。この他にも、最近のシステム関連分野では、インターネット(WWW)を使った調査や、コンピュータを使った教育やテストに関するデータもあるでしょう。
実際の研究方法については、次のような方法が考えられます。例えば、自分自身で興味のある既存のデータに関して解析を行い、そこから何らかの新しい知見を得たり、あるいは裏付けを行ったり、またこれについては、データを自分自身で集めるところからはじめることも考えられます。数学の得意なものは、興味の対象となるデータを解析するための手法そのものについて研究し、何らかの新しい手法を開発したり、理論的に考察することで新しい理論を確立するようなテーマもあります。そして、計算機の得意なものは、乱数を用いたコンピュータシミュレーションを行うことで理論的な考察を行ったり、データを解析するためのシステムやコンピュータを使った手法の開発なども、考えられます。最近では、コンピュータを使った適応型テストシステムの開発や、WWWを使った調査などに関する研究テーマもあります。
ただし、どのようなテーマについて研究を行う場合でも、情報科学科で学ぶ以上は、必ず理論的な裏付けまで理解してから、その上で先の研究に進んで行くことが基本になります。そうすることで、今後、社会に出たり、研究の道に進んで行った時にも、色々な事柄に対して、それを自分の力で応用できるようになると思います。この研究分野は、色々な分野の要素を合わせ持った学際的な分野であり、比較的実社会に近いテーマについて取り扱う分野だと思われます。
週1回行うゼミでは、教員の話を聞いているだけの一方通行の講義形式と違い、各自が発表を行います。そのため、ただ話を聞くだけではありませんので、いろいろな意味で責任が発生します。ゼミを通じて、研究面の知識だけではなく、社会に出てからの仕事に対する責任感なども養います。
また、卒業研究など各自で行う研究には、あらかじめ用意された解答例も、正解もありません。一生懸命、研究を進めていっても、思った通りの結果が得られない場合もあります。例え、そういった場合であっても、その原因を追求し、他の方法を試すことで前に進んだり、あるいは、見方を変えて、他の観点から結果を見直すことにより、思ってもいなかった結果を導きだしたりすることが必要になります。いわゆる試験や練習問題などと違い、答えがないものから、新たな結論を導き出すことで、問題解決の方法や能力を養います。